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恐怖心霊現象 怪談百物語 第十話 食わず女房

むかしむかし、あるところに、とてもけちな男が住んでいて、いつもこう言っていました。
「ああ、仕事はよくするが、ごはんを食べない嫁さんが欲しいなあ」
そんな人がいるはずないのですが、ある時、一人の女が男の家をたずねてきて、
「わたしはごはんを食べずに、仕事ばかりする女です。どうか、嫁にしてくださいな」
と、言うではありませんか。
それを聞いた男は、大喜びで女を嫁にしました。

男の嫁になった女は、とてもよく働きます。
そして、ごはんを全く食べようとしません。
「ごはんは食べないし、よく仕事をするし、本当に良い嫁じゃ」

ところがある日、男は家の米俵(こめだわら)が少なくなっているのに気がつきました。
「おや? おかしいな。嫁はごはんを食べないはずだし」
とりあえず、男は嫁に聞いてみましたが、
「いいえ。わたしは知りませんよ」
と、言うのです。
あんまり変なので、次の朝、男は仕事に行くふりをして、家の天井に隠れて見張っていました。
すると嫁は倉(くら)から米を一俵かついできて、どこからか持ってきた大きなカマで一度にご飯を炊きあげました。
そして塩を一升(いっしょう→1.8リットル)用意すると、おにぎりを次々と作って、山の様に積み上げたのです。
(何じゃ? お祭りじゃあるまいし、あんなにたくさんのおにぎりを作って、どうするつもりだ?)
男が不思議そうに見ていると、嫁は頭の髪の毛をほぐしはじめ、頭のてっぺんの髪の毛をかきわけました。
すると頭のてっぺんがザックリと割れて、大きな口が開いたのです。
嫁はその口へ、おにぎりをポイポイ、ポイポイと投げ込んで、米一俵分のおにぎりを全部食べてしまいました。
(あわわわわ。おらの嫁は、化物だ!)
怖くなった男はブルブルと震えましたが、嫁に気づかれないように天井から降りると、仕事から帰ったような顔をして家の戸を叩きました。
「おい。今、帰ったぞ」
すると嫁は、急いで髪の毛をたばねて頭の口を隠すと、
「あら、おかえりなさい」
と、笑顔で男を出迎えました。
男はしばらく無言でしたが、やがて決心して言いました。
「嫁よ。実は今日、山に行ったら山の神さまからお告げがあってな、『お前の嫁はええ嫁だが、家においておくととんでもない事になる。はやく家から追い出せ』と、言うんじゃ。だからすまないけど、出て行ってくれんか?」
それを聞いた嫁は、あっさりと言いました。
「はい。出て行けと言うのなら、出て行きます。でもおみやげに、風呂おけとなわをもらいたいのです」
「おお、そんな物でいいのなら、すぐに用意しよう」
男が言われた物を用意すると、嫁さんが言いました。
「すみませんが、この風呂おけの底に穴が開いていないか、見てもらえませんか?」
「よしよし、見てやろう」
男が風呂おけの中に入ると、嫁は風呂おけになわをかけて、男を入れたままかつぎ上げました。
ビックリした男が嫁の顔を見てみると、嫁はなんと、鬼婆(おにばば)にかわっていたのです。
鬼婆は男を風呂おけごとかついだまま、馬よりもはやく駆け出して、山へと入っていきました。
(こ、このままじゃあ、殺される! じゃが、どうしたらいい?)
男はどうやって逃げようかと考えていると、鬼婆が木によりかかってひと休みしたのです。
(今じゃ!)
男はその木の枝につかまって、なんとか逃げ出す事が出来ました。

さて、そうとは知らない鬼婆は、またすぐに駆け出して鬼たちが住む村へ到着しました。
そして、大きな声で仲間を集めます。
「みんな来ーい! うまそうな人間を持ってきたぞー!」
仲間の鬼が大勢集まって来ましたが、風呂おけの中をのぞいてみると中は空っぽです。
「さては、途中で逃げよったな!」
怒った鬼婆は山道を引き返し、すぐに男を見つけました。
「こら待てー!」
「いやじゃ! 助けてくれー!」
鬼婆の手が男の首にかかる寸前、男は草むらへ飛び込みました。
すると鬼婆は男の飛び込んだ草むらが怖いらしくて、草むらの中に入ってこようとはしません。
男はブルブル震えながら、一生懸命に念仏を唱えます。
「なまんだぶー、なまんだぶー」
鬼婆は草むらのまわりをウロウロしていましたが、やがてあきらめて帰って行きました。
「た、助かった。・・・しかし、なんで助かったのじゃろう?」

実は男の飛び込んだ草むらには、菖蒲(しょうぶ→サトイモ科の多年生草本で、葉は剣状で80センチほど)がいっぱい生えていたのです。
鬼婆は菖蒲の葉が刀に見えて、入ってこれなかったのです。

引用:福娘童話集
http://hukumusume.com/DOUWA/index.html

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